セリティを学ぶ 第二部
5章 / 全5

伝統を守るとは、形を変えないことか

親切や知恵は残り、通過儀礼やジェンダー役割への評価は揺れる。Ratheteの調査の限界も踏まえながら、伝統を受け継ぐための批判と更新を考えます。

nakano
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アフリカ哲学

残ったものと、揺らいだもの

伝統は、古い箱に入った完成品ではありません。人が使い、争い、捨て、別の意味を与えるたびに形を変えます。

Ratheteの調査では、親切、寛大さ、誠実さ、よく語ることなどは、2000年代にもセリティと結びつけて評価されていました。一方で、祖先に選ばれた治療者であること、強い薬で身を守ること、通過儀礼を経験することが、そのまま高いセリティを意味するという見方には、否定や迷いが多く見られました。これは、Ratheteが設けたA・B・Cの三分類を使って質問紙を読んだ結果です。人びと自身が、日常的にセリティをA・B・Cと呼び分けているわけではありません。

ここから「倫理だけが残り、宗教は消えた」と単純に結論づけることはできません。祖先との関係を語ることに慎重な人もいれば、キリスト教と祖先祭祀のあいだで意味を組み替える人もいます。調査が捉えたのは、伝統の終わりではなく、何をセリティと呼ぶかが争われている一時点です。

調査結果を、共同体全体の声にしない

この論文は、過去の文献、ことわざ、小説、聞き取り、質問紙を組み合わせています。調査地域にはLimpopo州の農村部と、その周辺の都市的な地域が含まれます。質問紙は主に教員、学生、行政職、看護師など、読み書きのできる20歳から60歳ほどの人を対象にしています。

この方法によって、世代、性別、教育歴による違いを比べられます。その一方で、無作為に選ばれた大規模調査ではありません。質問項目には、何がセリティを高めるはずかという著者の見方も含まれています。さらに、論文は一部の回答から将来の消滅を予測するなど、データ以上に強い結論へ進むことがあります。

したがって、数字は「北ソトの人びとはこう考える」という最終回答ではなく、ある時期、ある地域、ある回答者のあいだで、評価がどの方向に揺れていたかを示す資料として読むのが妥当です。

調査する側にもセリティが問われます。誰の声を集め、誰の声を「共同体の声」として語るのか。その選択が、人びとの尊厳を見えるものにも、見えないものにもするからです。

古い言葉を、古い役割から救い出せるか

論文の女性像を扱う章には、セリティのある女性を、母親であること、家を整えること、夫や義母に尽くすことと結びつける回答が登場します。教育や仕事を持つ女性が増えても、経済的に自立した未婚女性やシングルマザーへの否定的な評価が残っていました。

Ratheteは、こうした「伝統的な荷物」を下ろし、すべての子どもと人を等しく扱う必要があると述べます。男性についても、複数の妻や多くの牛を持つことではなく、家族を支え、妻を愛し、女性や子どもへの虐待を拒むことへ評価を移そうとします。

ここで起きているのは、伝統の放棄ではありません。「立派な人を認める」というセリティの問いを残しながら、立派さを測る古い役割を批判しています。

言葉を守るために、言葉が結びついてきた制度を変える。これは矛盾ではなく、伝統が生き延びる一つの方法です。

受け継ぐ前に、四つに分けて問う

ここからは、本記事での現代的な読みです。

慣習を残すか廃止するかで迷うとき、四つの問いに分けると考えやすくなります。

  1. 何を守ろうとしていたのか
    知識の継承、相互扶助、成人の承認など、その慣習が担っていた働きを確かめます。
  2. 誰を守り、誰に負担を負わせたのか
    共同体全体のためという説明の裏で、特定の性別、年齢、出自の人だけが犠牲になっていないかを見ます。
  3. 本人が異議を述べられるか
    参加しない選択や、別の方法を提案する余地があるかを確かめます。
  4. より害の少ない形で、働きを残せるか
    形式を変えても、学び、承認、連帯を引き継げないかを考えます。

伝統を働き・負担・異議・更新から点検する

尊厳は、受け継ぐものでも、作り変えるものでもある

第二部では、子ども、若者、指導者、個人と共同体、変化する慣習を見てきました。

セリティは、目に見えない物理エネルギーとして人から人へ放射される、と確認できる概念ではありません。Ratheteの論文から見えるのは、もっと社会的で、扱いの難しい動きです。

人は、人であることによって尊厳を持つ。しかし、どのような人が立派だと認められるかは、関係、制度、時代によって変わる。その評価は人格を育てることもあれば、誰かを外へ押し出すこともあります。

だからセリティは、自己評価の道具だけでは終わりません。

私たちは、次の世代へどのような尊厳の物差しを渡すのか。

受け継いだ言葉に敬意を払いながら、その言葉で傷つけられてきた人の声も聞く。残すべき働きと、変えるべき形を分ける。伝統を生かすとは、その判断を止めないことなのかもしれません。


付録:総合図解

総合図解では、第二部の内容を四つの問いに分けます。第1図は人の成長と承認、第2図は通過儀礼の働きと危険、第3図は個人と共同体の循環、第4図は伝統を更新する判断の流れです。図中では、論文の記述と本記事での整理が区別できるように補足します。

1. 人は、どこでセリティを認められるのか

Ratheteが子ども、若者、大人、指導者について記した内容をもとに、人であることに伴う尊厳と、周囲からの評価を整理します。人生の段階は一直線の序列ではなく、異なる関係と責任が重なる過程として読んでください。

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2. 通過儀礼は、何を一つに束ねていたのか

Ratheteが記す通過儀礼の働きを、身体、教育、共同経験、承認、帰属へ分けます。右側の危険と更新案には、論文著者の批判と本記事での整理が含まれます。

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3. 「私たち」と「私」は、どう支え合うのか

Ratheteが紹介する共同体主義への批判を出発点に、共同体が個人を育て、個人の行為と異議が共同体を変える循環を示します。破線で示す排除と異議の関係は、本記事での整理です。

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4. 伝統を更新する四つの問い

最後の図は、伝統を「守る/捨てる」の二択にしないための判断手順です。論文で確認される歴史的記述から、現代の判断へ進む部分は、本記事での応用です。

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参考文献

  • Matome Bethuel Rathete, The Reality and Relevance of Seriti in the Past and Present: Its Essence and Manifestation in an African Religion Perspective with Special Reference to the Northern Sotho, University of South Africa, 2007(UNISA Institutional Repository公開: 2009). 本記事では特に、方法(19–21頁)、通過儀礼・指導者・子ども・若者(50–89頁)、女性(94–117頁)、男性(124–146頁)、結論(150–161頁)を参照しました。UNISA Institutional Repository
  • R. J. Mönnig, The Pedi, J. L. van Schaik, 1967.
  • Gabriel M. Setiloane, The Image of God among the Sotho-Tswana, A. A. Balkema, 1976.