個性化
概要
個性化(Individuation)は、C.G.ユングの分析心理学で、自我が意識と無意識を含む心の全体との関係を深め、その人固有の自己へ向かう過程です。
単に人と違うことや、自分の欲望を優先することではありません。自我が認めたくない影、夢や象徴に現れる無意識の内容、社会的な役割と実際の自分のずれに向き合い、自我を心の唯一の主人と考えないようになる過程です。
自我と自己
- 自我(Ego):ふだん「私」と感じている意識の中心。
- 自己(Self):意識と無意識を含む心の全体性を表す概念。
個性化では、自我を消すのではなく、自我が自己との関係の中で適切な位置を得ることが問われます。自分の知らない側面を意識へ取り込みながら、他人の期待だけでも、無意識の衝動だけでもない生き方を形にします。
影との関係
影は、自我が自分のものとして認めにくく、意識の外へ置いた性質や衝動です。影に向き合うことは、否定的な要素を称賛することではありません。他人にだけ見ていた怒り、弱さ、欲望などが、自分にもありうると認め、その力に無自覚に動かされないようにすることです。
個性化は影の統合だけで完了する単純な手順ではありませんが、影との対決は重要な契機になります。
三つのグナとの比較
『バガヴァッド・ギーター』の三グナと比較すると、どちらも「自我が、自分を動かすすべてを知っているわけではない」という問いを開きます。
しかし、概念の範囲と目的は異なります。影と個性化は心理の全体性と成熟を扱います。三グナは心だけでなく、身体、感覚、行為、自然を成り立たせる性質であり、ギーターでは最終的に三グナを超えることが問われます。
したがって、タマスを影、グナの観察を個性化とそのまま置き換えることはできません。比較は、それぞれの違いを保った補助線として使う必要があります。
共同体との関係
個性化は、社会から孤立することではありません。集団の期待へ無自覚に同調するのでも、反対すること自体を個性と考えるのでもなく、自分の判断と責任を持って関係へ参加することにつながります。
ソボールノスチのような共同体思想と比較する場合も、「個性化した人だけが理想の共同体を作れる」と断定するのではなく、個人の固有性と共同性をどう両立させるかという問いに限って結ぶのが適切です。
登場するブログ記事
さらに深く知るためのガイド
- C.G. Jung, Two Essays on Analytical Psychology
- C.G.ユング『自我と無意識』