古文辞学
nakano
5 min read
概要
古文辞学とは、江戸時代中期の思想家・荻生徂徠が、古代中国の言葉と制度の文脈から、先王の「道」を読み直そうとした学問です。
徂徠は、後世の語義を古典へ持ち込むと、古代の文章が見えなくなると考えました。そこで古語の用法を学び、礼・楽・刑・政が実際にどのような制度を形づくったのかを重視します。これは近代の実証科学と同じ方法ではありませんが、解釈者自身の言葉を過去へ投影しないための、歴史的な読解法でした。
詳細解説
1. 心の内側だけに「道」を求めない
徂徠は、朱子学が人間の性や心の中に普遍的な理を求めることを批判しました。個人が内省を深めるだけでは、政治や社会の秩序は作れないと考えたからです。
ただし、徂徠を単純な反道徳論者と見ることはできません。問題にしたのは、人を治め、生活を支える具体的な制度を離れて、道徳を個人の心だけで完成させる考え方です。
2. 道は、先王が作った礼楽刑政にある
徂徠にとって「道」は、自然に心から湧き出るものではなく、古代の聖王が人々を安んじるために制作した礼・楽・刑・政の総体です。そのため、古典を読むことは、抽象的な徳目を探す作業だけでなく、言葉と制度がどのように結びついていたかを確かめる作業になります。
3. 歴史的に読むことの力と限界
古い言葉の意味をたどる方法は、後代の常識を古典へ投影する危険を減らします。一方で、古代の意味へ完全に透明に戻れるわけではありません。また、先王の制度を基準にすること自体が、現代の制度設計と同じではありません。
古文辞学の面白さは、内面の善意だけでは政治を組み立てられないという批判と、言葉の歴史を通して思想を読み直す方法が結びついている点にあります。