非攻
nakano
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概要
非攻(ひこう、Fei Gong)とは、他国への侵略戦争を全面的に否定する、墨子の強力な反戦・平和主義の思想です。単なる道徳的な戦争批判にとどまらず、戦争にかかる経済的・人的コストを緻密に計算し、「侵略戦争は引き合わない(割に合わない)」という合理的な理由から戦争を否定した点が大きな特徴です。一方で、侵略から自国や他国を守るための「防衛戦」は正義として強く肯定しました。
詳細解説
墨子は『非攻』篇において、人を一人殺せば死刑になるのに、戦争で多数の人を殺して土地を奪うと「正義(義)」として称賛される当時の価値観の矛盾を激しく攻撃しました。
しかし、彼の論理の真骨頂は「損得勘定」にあります。農繁期に兵士を動員することによる農業生産の停止、馬や武器の消耗、敵国からの恨みによる国際的孤立など、目に見えないコストを合計すると、仮に戦争に勝利して土地を得たとしても、国全体の利益は必ずマイナスになると論証しました。これは現代の「戦争の経済学」が導き出した結論と完全に一致しています。
また、墨子は平和を「祈る」だけではなく、「設計」しようとしました。侵略戦争(不義)を否定する一方で、自衛や弱小国を守るための戦い(義)は肯定し、自らの教団(墨家)を最強の武装防衛集団へと育て上げました。「攻撃してもコストが高すぎて得をしない」という状況を物理的に作り出すことで、侵略国に戦争を思いとどまらせる。これは現代の「抑止力」の概念そのものです。
この概念が登場するブログ記事
さらに深く知るためのガイド
- Wikipedia「非攻」
- イマヌエル・カント(著)、宇都宮芳明(訳)『永遠平和のために』(岩波文庫、1985年)