兼愛
nakano
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概要
兼愛(けんあい、Jian Ai)とは、古代中国の思想家・墨子(ぼくし)が提唱した、すべての人を差別なく等しく愛するべきだとする普遍的な愛の思想です。「人の国を視ること、其の国を視るが若くし、人の家を視ること、其の家を視るが若くし、人の身を視ること、其の身を視るが若くせよ」と説かれ、他者の利益や苦しみを自分のものと全く同じ重みで扱うことを要求します。
詳細解説
墨子が生きた春秋戦国時代は、国と国、家と家が利益を巡って終わりのない戦争と略奪を繰り返す時代でした。墨子はこの争いの根本原因を、自分や自分の家族・国家だけを特別扱いし、他者を排除する「別愛(差別する愛)」にあると看破しました。儒教が家族愛(孝)を道徳の出発点とし、それを外へと広げていく自然な感情のグラデーションを肯定したのに対し、墨子は「身内への愛は必然的に外部への敵意を生む」と考えたのです。
兼愛は単なる道徳的な綺麗事ではありません。墨子は「すべての人が他者の利益を自分の利益として考えれば、結果的に社会全体の争いが消滅し、自分自身の利益も最大化され守られる」という、極めて合理的で功利主義的な計算に基づいて兼愛を提唱しました。これは現代のゲーム理論における「協力均衡」や、ピーター・シンガーらが提唱する「効果的利他主義(Effective Altruism)」、および道徳の「拡張する輪」の概念と驚くほど構造的に一致しています。
兼愛の要点
- 無差別の愛: 家族や自国と、他人の家族や他国との間に愛情の差を設けない。
- 合理的な利益の追求: 感情に頼るのではなく、「兼愛こそが最も自分の得になる」というシステム設計(交相利)とセットで機能する。
- 別愛の克服: 人間が持つ「身内びいき」のバグ(進化の産物)を理性の力で乗り越えることを目指す。
この概念が登場するブログ記事
さらに深く知るためのガイド
- Wikipedia「兼愛交利」
- 墨翟(著)、金谷治(訳)『墨子』(岩波文庫、1957年)
- ピーター・シンガー(著)、山内友三郎(訳)『拡大する輪──道徳的進歩の歴史』(晃洋書房、1994年)