交相利

nakano
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概要

交相利(こうそうり、Jiao Xiang Li)とは、古代中国の墨子が「兼愛」とセットで提唱した、互いに利益(利)を与え合う(交相)という社会原理です。「人を愛する者は、人も従って之を愛す。人を利する者は、人も従って之を利す」という言葉に表れるように、利他的な行動が巡り巡って自分自身の利益となって返ってくるという、相互利益のメカニズムを指します。

詳細解説

墨子の哲学において、愛(兼愛)と利益(交相利)は不可分です。儒教の孟子などが「利益(利)を語ることは道徳(義)に反する」と批判したのに対し、墨子は「利益の追求こそが道徳の基盤であるべきだ」と反論しました。

交相利の思想は、現代のゲーム理論経済学の観点から見ると非常に先駆的です。「囚人のジレンマ」において、一回限りの関係では「裏切り」が合理的ですが、関係が繰り返される(反復ゲーム)社会においては、互いに協力し合う「しっぺ返し戦略(Tit for Tat)」のような協力行動が、全員の利益(社会全体の富と安全)を最大化することが数学的に証明されています。

墨子は2400年前にこの「協力均衡」の構造を直感的に看破し、「交相利」という言葉で定式化しました。彼にとって、平和や道徳は「感情的な自己犠牲」によってではなく、「全員にとってそれが最も得だから」という合理的な計算と社会設計によってのみ実現可能なものだったのです。

交相利の要点

  • 愛と利益の一致: 他者を利することは、道徳的に正しいだけでなく、経済的・生存戦略的にも最も正しい選択である。
  • 互恵性の連鎖: 利益は一方通行ではなく、社会のネットワークを通じて循環し、社会全体の最適化をもたらす。
  • 囚人のジレンマの克服: 各人が目先の利己主義(別愛)を捨てることで、結果的に全員が「最悪の事態(戦争・搾取)」を回避できる。

この概念が登場するブログ記事

さらに深く知るためのガイド

  • Wikipedia「兼愛交利」
  • ロバート・アクセルロッド(著)、松田裕之(訳)『つきあい方の科学──バクテリアから国際関係まで』(ミネルヴァ書房、1987年)